不動産名義変更等

レアケース!遥か昔の抵当権を消す方法(休眠抵当権抹消)

はじめに

 今日は司法書士をしていれば、たまに相談を受ける昔の抵当権の抹消の依頼(抵当権は昭和初期、大正、明治等 100年以上前のもの、根抵当権も同様)について書きたいと思います。

あっと驚く昔の登記簿内容!

 ほとんどの方は土地の登記簿を見る事はあまりないと思います。家を買う時に不動産屋で説明を受けるときに、相続で名義を変えたときに、土地を売る時に改めて登記簿を見る程度等かなと思います。

 その時稀に、乙区(所有権以外の権利の表示)欄に全く知らない人の名前の記載があることがあります。 以下は、一例です。

債権額 10円

昭和5年8月8日契約

抵当権設定

抵当権者  住所  唐津市大字唐津1番地

氏名  休眠 太郎

具体的には、以下のように表示されています。

 特徴は、上のような古い受付日の抵当権で原因が昭和8年、全く知らない人が抵当権者として記載されています。抹消したいけど、さてどうしよう、となりますが、そもそも抵当権の抹消登記は所有権として登記してある現在の所有者と抵当権者が共同して行います。

 例えば 住宅ローンを返済し終わると、銀行から抵当権抹消の為の書類をもらえます。その書類を使って、マイホームの持ち主は銀行を共同して住宅ローン完済による抵当権抹消登記をします。

 しかし、休眠太郎さんみたいなケースではそもそも今どこにいるのか、生きているのかわからず、共同で抵当権を抹消しようにも所在不明になっていて協力を得られそうにありません。

どうしよう?何か手段はないのか。。。

 このような事態を想定して不動産登記法第70条に(登記義務者(つまりここでは休眠太郎さん)の所在が知れない場合の登記の抹消の方法が)規定されています。

 抵当権者等の登記義務者が行方不明のため,共同して抵当権等の登記の抹消の申請をすることができない場合,供託をした上で,その供託をしたことを証する書面を登記申請書に添付して,単独で抵当権等の登記の抹消を申請することができるとされています(不動産登記法(平成16年法律第123号)第70条)。

不動産登記法第70条 

1 登記権利者は、登記義務者の所在が知れないため登記義務者と共同して権利に関する登記の抹消を申請することができないときは、非訟事件手続法(平成23年法律第51号)第99条に規定する公示催告の申立てをすることができる。

2 前項の場合において、非訟事件手続法第106条第1項に規定する除権決定があったときは、第60条の規定にかかわらず、当該登記権利者は、単独で前項の登記の抹消を申請することができる

3 第1項に規定する場合において、登記権利者が先取特権、質権又は抵当権の被担保債権が消滅したことを証する情報として政令で定めるものを提供したときは、第60条の規定にかかわらず、当該登記権利者は、単独でそれらの権利に関する登記の抹消を申請することができる。同項に規定する場合において、被担保債権の弁済期から20年を経過し、かつ、その期間を経過した後に当該被担保債権、その利息及び債務不履行により生じた損害の全額に相当する金銭が供託されたときも、同様とする。

(引用:不動産登記法)

抵当権を抹消するための条件

次の1から4の要件を全て満たすと単独で休眠抵当権を抹消できます。

  1. 抵当権者等の登記義務者が行方不明であり,共同で抵当権等の登記の抹消を申請することができないこと。
  2. 被担保債権の弁済期から20年以上経過していること。
  3. 被担保債権の債務者,物上保証人,現在の所有者(第三取得者)等が,債務履行地の供託所に,被担保債権(元本),利息及び債務不履行によって生じた損害金を供託すること。
  4. 供託したことを証する書面(供託書正本)を登記申請書に添付して,単独で抵当権等の登記の抹消を申請すること。

上記の1から4を解説します。

1.「所在不明」であるかどうかはどのように証明するのか

 登記上の住所、氏名に配達証明付で 債権の受領催告書をという書類を送ります。つまり、借りていたお金と利息、損害金を返しますので受け取ってくださいよという手紙です。大抵の場合は所在不明でしたという郵便局のスタンプが押されて郵便が差し戻されてきますのでその封筒が所在不明を証明する書類となります。

 上記のサンプルには、赤いスタンプで「宛所に尋ねあたりません」というメッセージが書いてあります。取扱郵便局と配達員の印鑑が押されて返却されます。

2.被担保債権の弁済期から20年以上経過していること

 この証明は簡単で、登記簿から読み取れます。特にある時期までの古い登記簿には弁済期の定めが登記されていましたのでその記載から20年以上経過していることがわかりますので、古い登記簿が弁済期から20年以上経過したことを証明するための書類となります。

 縦書きです。達筆すぎて読めない場合が多いです(笑)。法務局で閉鎖登記簿を取得します(コンピューター前の登記簿といえばくれます)。

3.損害金の供託

 現在の所有者(第三取得者)等が,債務履行地の供託所に,被担保債権(元本),利息及び債務不履行によって生じた損害金を供託する場合は、地道に計算します。

 計算はExcelで計算してもいいし、法務省のホームページから計算ソフトをダウンロードして計算してもいいです。ただし、古い抵当権の登記簿が読みにくいのでかなり大変になるかもしれません。

(参考:遅延損害金計算ソフトウェアのダウンロードについて)

 地道に計算します。上記はありおが実際に計算した結果です。うるう年も計算します。小数点以下4ケタまで計算し、法務局と事前調整する必要があります。

4. 供託したことを証明する

 供託(法務局)すると供託書という書類をもらえるので、その供託書がいわゆる金融機関から預かる抵当権抹消書類と同じ意味合いです。ここまで来たらもう一息です。あとは抵当権抹消登記申請書を作成して登記受付してもらい、抹消が完了するまで1週間程度待ちます(訂正があれば法務局から連絡来ますので訂正に赴きます)。

供託申請書とその記載例です。

供託って何?

 ここで供託?って何?という方のためにワンポイント解説します(供託をご存じの方は読み飛ばしてください)。

 例えば、10億円を、利息を年5パーセント、遅延損害金6パーセントで、ちょうど1年後に貸主の家に持参して返す約束をして借りたとします。約束の日に10億5,000万円を持って貸主の家に行ったところ不在です。玄関には海外旅行の為1か月留守にしますとメッセージが貼ってありました。

 ここで帰ったら1日経つごとに約16万4,000円、1か月30日で約492万円の遅延損害金が発生します。どうしよう!! イメージしやすいようにわざと金額を大きくしましたが、実際に自分がこのような目に合うと相当悩むはずです。このような時に「供託」という仕組みが使えます。

 供託をすれば、返済したこととなる訳です。国がちゃんと領収書も発行してくれます(笑)。このような場合は仕方がない場合なので国が責任もって不在者の代わりに受け取ってくれるのです。

 このような事案を硬く記載すると下のようになりますが、たぶん10億のはなしのおかげでいくぶん理解しやすいのではないでしょうか?

 供託とは,金銭,有価証券などを国家機関である供託所に提出して,その管理を委ね,最終的には供託所がその財産をある人に取得させることによって,一定の法律上の目的を達成しようとするために設けられている制度です。


 ただし,供託が認められるのは,法令(例えば,民法,商法,民事訴訟法,民事執行法等)の規定によって,供託が義務付けられている場合または供託をすることが許容されている場合に限られています。

さいごに

 今回は昔の抵当権者(登記義務者)が所在不明の時の場合にどうするのか、まとめてみましたが、たまに抵当権者の住所宛てに債権受領催告書を送付したら、今も抵当権者の親族(というか子孫)が住んでいて、抵当権者の相続人が膨大な人数になってしまうことがありますが、この場合の抹消もかなり大変なのでまた改めてご紹介したいと思います。