不動産名義変更等

レアケース!遥か昔の抵当権を消す方法(休眠抵当) (後編)


はじめに

この記事では、前回に引き続き、明治、大正、昭和初期のころの昔の抵当権に遭遇してしまった時の抹消手続きの別バージョンについて順番に解説していきます。

休眠抵当権者にまずは抵当権についての通知を出します。

昔の抵当権者が記載されている登記簿の乙区欄の抵当権者の住所、氏名宛に債権の受領催告書を配達証明付き書留郵便で送付します。 登記簿に昭和5年とか、大正、明治の契約で 抵当権と記載あるのが特徴です。
債権額 10円
昭和5年8月8日契約
抵当権設定
抵当権者  住所    唐津市大字唐津1番地
       氏名   休眠 太郎
この例では休眠太郎さん宛てに下にあるような債権受領催告書を配達証明付書留郵便で発送します。 特定記録ではなく、配達証明なのがミソです。一般的には馴染みがないですが。

配達証明付き郵便とは?

一般書留郵便物等を配達した事実を証明してくれます。料金は一般書留郵便に+320円かかります。 つまり  84円  +410円 +320円=814円かかります 結構高いですね。 定形外普通料金+一般書留料金+配達証明料金 
                                         受領催告書
                                                               令和2年11月7日 今般、私所有の後記不動産に設定されている後記抵当権の抹消登記手続きつき、貴殿にご協力をお願い致したく、お手紙を差し上げます。 債務者が貴殿に対し、当該抵当権被担保債権たる債務がもし未払いの場合は、その債務全額(元本、利息、損害金全額)について、現在の土地所有者である私がお支払いいたしたくご通知いたします。 つきましては、ご連絡先及び具体的な支払方法についてご指示頂けますようお願い申し上げます。 (通知人) 住所(省略) 担保設定者(第三取得者) 依頼者 氏名(省略) 上記代理人 佐賀県唐津市○○ ありお司法書士事務所 司法書士 ありお 電話 (被通知人) 住所 佐賀県唐津市大字唐津1番地 休眠 太郎   不動産の表示 1.唐津市○○町○○ ○○○○番○ 田        ○○㎡ 抵当権の表示 1.昭和5年8月8日受付第○○○号 昭和5年8月8日設定 債権額  金10円 利息   月1分抵当権者 抵当権者 佐賀県唐津市大字唐津1番地 休眠 太郎 封筒に宛てどころにたずねあたりませんという赤いスタンプがおされて返戻されてきた場合には前回ご紹介した債権者が行方不明ということで供託の手続きをとって抵当権抹消登記申請ができますが、(不在調査で戸籍等の調査については触れてませんですが割愛します)               

休眠抵当権者の相続人がいた場合は?

受領催告書が返戻されて来ずに宛先に届いた場合は配達完了のハガキが郵便局が来ます。  しかし、先方から何の連絡もない場合には現地に行ってみます。届いたということは受け取った方がいるハズなので(一般書留郵便料も支払っているので手渡しです)その住所地にすんでいる方に自身の素性を明かして、大昔の休眠太郎さんの件を尋ねてみます。 だいたいが太郎さんの子孫(苗字も同じ場合)であることが多いので、大昔の抵当権の抹消について説明をするも一筋縄ではいきません。

相続人全員の調査は難航しがち

大昔の抵当権が100年前のものだとします。郵便を受け取った方が子孫です。当然他にも子孫はいるはずですよね。それも大勢。。。。 こうゆう場合は休眠太郎さんの相続人調査が必要になります。例えば26人が休眠太郎さんの相続人であると判明したとしますその場合には全員が抵当権抹消登記手続きに協力してくれなければ抹消できません 具体的な協力とは
  • 抹消登記用の書類に実印をいただき印鑑証明書を1通送ってもらう
  • さらに法務局からの照会文(本人限定受取郵便という相続人本人が身分証を提示しないと受け取れない郵便で来ます)を受領してもらう
  • 法務局からの照会文に署名、実印を押印して返送してもらう
といった感じで、抵当権者の相続人達にとっては面倒でしかないので全員が協力してくれる期待はできません。(100年前の抵当権の権利証があれば印鑑証明書や照会文への対応は省略できますが、あるはずはないでしょう)そうです、一人でも協力していただけない方がいたら土地所有者と抵当権者の相続人達との手続きはできないのです。 見にくいですがこれで20人の相続人の関係図です(判別できないようにぼかしています)スライドファイル4冊分で戸籍が60通程になります。4世代にわたる場合大概このようになってしまいます。くれぐれも相続登記は放置してはいけません。

 最後は訴訟で決着するしかない

協力を得られない場合、最後の手段として、休眠抵当権の相続人全員を被告とする抵当権抹消登記請求訴訟を提訴してその勝訴判決を得て、抵当権抹消登記を土地の所有者が単独で申請します。勝訴判決をもって26人が抵当権抹消手続をしたとみなされる訳です。 実際に受託した案件をこなす時は、手続きの流れが頭に入っているのでこのように文章化して説明する必要もありませんが、改めてこうやって流れを文章化すると非常にやっかいな手続きですね 先ほどは、相続人調査で26人判明と書きましたが、この人数だとかなり大変です。時間とお金を戸籍を読み解く特殊能力が必要です。 さらに、訴訟を提起するとも一文で書きましたが、これも弁護士、司法書士以外ではこのような案件の訴状は作成できないでしょう。 また被告全員に訴状が送達されない限り訴訟が進んでいきませんので、被告の一部が行方不明、受取り拒否したり、留置期間満了等により訴状が届かないと大きな壁となり、別途公示送達という手続きを申し立てて被告が不在でも訴訟が進行していくような手立てをとらなければなりません。これもかなりの手間となります。 ここで前回のお話を含め手続きのフローチャートを示してみます。 

         抵当権者の住所宛てに

     債権の受領催告書を配達証明付郵便で送付

     ⇓              ⇓

  宛所にたずねあたりません      相続人が判明

    で返戻。                  相続人全員を調査

                ⇓                                   ⇓

 不動産所在地管轄の     全員が協力   任意の協力不可

 供託所に供託               不動産所在地の

                                地裁or簡裁に提訴

             ⇓                                       ⇓                        ⇓      

  供託後、土地所有者単独   土地所有者と相続人全員  勝訴判決後

で抵当権を抹消申請     で抵当権を抹消申請    抵当権抹消

☆ワンポイント豆知識 

住所の調査ってどうやるの?
今回ご紹介した中で  相続人調査して抵当権抹消の協力をお願いする場合や、訴訟を提起する場合にそもそも相手の住所がわかってないとどうしようもないのでは? と思われた方はとても鋭いです。現在の土地所有者から見たら全く知らない人、当然ありおも知るはずもない住所をどうやって調べるのか?  答えは 戸籍の附票という書類をその欲しい対象の方の本籍地の市役所で取得します。  戸籍の附票には本籍、氏名住所(住所変更の経緯、例えば引っ越しなどで転々と住所が変わっていてもわかります)が記載されますので、戸籍を調査して相続人の調査と同時に戸籍の附票も取得していけば住民登録上の住所が判明します。  (司法書士には職務上請求用紙というものがあり、戸籍や住民票写、戸籍附票が職務執行上必要な場合のみ使用できます写真は実物で日本司法書士連合会の様式です。ちゃんとナンバリングしてあり、どの司法書士が使用したかわかります。)

ここまでの休眠抵当権抹消の方法まとめ

  1. 行方不明の場合の供託制度を利用した抵当権抹消(前回のお話)
  2. 休眠抵当権の相続人全員を相手に訴訟を提起して勝訴後に抵当権抹消(前回のお話)
  3. 他の手続き
他にも抹消方法は法律に規定されていますが、実際はとても使えない(お金も費用もかかる)とか現実的ではない(100%用意できない書類を要求している)机上の空論だと思ってますので、ありおのブログでは割愛します(どうしても知りたい方は、ほかのWebで沢山照会されてます) 今までご紹介したケースは休眠抵当権者が人間でしたが、休眠抵当権者が当然会社(法人)であることも当然あります。これはこれでまた悩ましい問題でご紹介すると長くなるので続編とします。   ありおからのアドバイス  借りたお金を返し終わったら抵当権はすぐに抹消しましょう!自動では抹消されません! ではまた!