目次
はじめに
ここでは日々の業務のこと、今まで経験したことをもとに、机上の空論よりリアルを書きます。あくまで私見なのでご理解ください。
いきなりですが、皆さんは遺言書作ってますか?ちなみに私は、既に35歳で公正証書作成し、次に41歳で2回目の公正証書を作成しています。
当初、「丁度人生の節目で、まだ子どもが2歳なので、万一私に何かあったら相続手続が大変なので、遺言を作ろう」と思い立ちました。
注意!
- 遺言は、「遺言書」として残してください。なぜなら、民法はこの書面方式しか認めないからです。画像や音声で意思表示する方が楽だと思っても、それは無効になります。
- 遺言は、15歳以上の者であれば作成できます。ただし、遺言能力がある者に限られ、「認知症」を患っている場合は注意が必要です。
- 遺言は、必ず「本人」が行います。親族や本人が選んだ代理人が作ることはできません。また、遺言を書くときに保佐人や補助人の同意はいりません。
- 成年被後見人がついている者でも、判断能力が一時的であれ回復したのであれば、医師2名以上の立ち会いのもと遺言をすることができます。
まめ知識! 一般的な3つの作成方法
一般的に、3つの遺言作成方法があります(実際は、4つ目として特別方式遺言もあります)。
- 公正証書遺言、
- 自筆証書遺言、
- 秘密証書遺言、
注意!
「遺留分」に注意 してください。遺留分とは、もともと法律で決まった相続割合です。遺言内容に関係なく、兄弟姉妹以外の相続人が相続を主張できる制度です。
つまり、特定の1名だけに相続させたくても、できない場合があるということです。権利者が遺留分を主張したら、財産を分ける必要があります。
遺留分を考えて、事前に、誰に、何を、どのくらい相続させるかを決めてください。
1.公正証書遺言
公正証書遺言は、遺言者が公証役場で公証人に遺言内容を伝え、公証人がその場で遺言書を作成する方法で作成されます。
※「公証役場」とは、権利、義務関係を公が認めた書類として認めてくれる機関です。法務省管轄の機関で、市役所とは関係がありません。全国に役300箇所あります。(参考:全国の公証役場)
公正証書遺言であれば、遺言書の原本を公証役場で保管してくれます。その結果、にせの遺言書が作成されることなく、あらかじめ家族内の争いを防げます。
ただし、無料ではありません。財産額によって価格が変動します。例えば、1億円を超える場合は、役場に支払う額は10万を超える場合があります。(参考:公正証書遺言の価格)
加えて、2名の証人が必要になります。守秘義務のある弁護士、司法書士に依頼することもできますが費用がかかります。自分で証人を確保する場合、遺言書の内容は少なくともその2名には伝わり、信頼できる人物でなければ情報が外に漏れる可能性があります。
まずは、公正証書遺言にすると決めた時点で、お近くの公証役場に連絡し、遺言書を作成したいと伝えてください。
一般的に公正証書遺言に必要とされる書類
No | 必要物 |
1 | 印鑑証明書 |
2 | 戸籍謄本 |
3 | 不動産がある場合 – 登記事項証明書(不動産登記を証明する書類) |
4 | 不動産がある場合 – 固定資産税評価証明書(所有者、面積、地価などを証明する書類) |
必要な書類は予め近くの公正役場に確認してください。
2.自筆証書遺言
自分で遺言書を書く方法です。費用がかからず簡易的に作成できる点が最大のメリットです。ただし、死後、相続人間のトラブルが生じる可能性が最も高い方法である点も注意しておいてください。以下よくある無効理由です。
- 遺言書が法律の要件を満たしていない。
- 表現が曖昧で、解釈がいくつもできてしまう。
- 最後の遺言書がどれかわからない(複数の遺言書が存在している)。
2020年7月1日より、法務局において自筆証書遺言書を保管する制度が開始されました(参考:法務省)。ただし、法務局が内容の正誤を指摘してくれるわけではありません。やはり、専門家に前もって見てもらうのが良いでしょう。この制度は完全ではなく、以前と比べれれば、リスクは抑えられるだけです。
(参考:自筆証書遺言の法務局保管制度の注意点!「その思い込み、危険です。」)
自筆証書遺言を残す場合は、以下の点に注意してください。
注意!
No | 注意点 |
1 | パソコンを使わず、自分の字で遺言書を書く。 |
2 | 誰が見てもわかる綺麗な字で書く。 |
3 | 「いつ」、「誰に」、「何を」、「どのくらい」、「どうやって」をはっきりと書く。 |
4 | 銀行預金、有価証券がある場合、銀行名(証券会社名)、支店名、口座番号の資料、登記事項証明書(不動産がある場合)を資料として添付する。 |
5 | 日付は年月日を正確に書く。 |
6 | 署名し、できれば実印を押す。 |
7 | 遺言内容を実行してくれる人を書く(ただし、法律の条件ではない)。 |
8 | 間違った場合は、二重線で消し、その上に署名、捺印をする。 |
9 | 遺言書が複数ある場合は、順番を特定する(紙をずらして割印を押せば良い)。 |
10 | 遺言書を封筒に入れ、署名、押印する(ただし、法律の条件ではない)。 |
自筆証書遺言は、トラブルになりやすいため、私のような司法書士に事前に内容を確認してもらう方が安心です。
3.秘密証書遺言
秘密証書遺言は、正式な遺言書であることの証明を公証役場で行う方法です。ただし、内容は自分で作成します(この点で、自筆証書遺言と変わりません)。
メリットは、複数の遺言書が存在した場合に、偽造の可能性を排除し、本人が書いたものと証明できる点です。他方、自筆証書遺言と同じように大きなリスクがあります。
公証役場は、内容の確認は行いません。もし、内容に不備があっても、指摘されないため、遺言が無効になる可能性があるということです。当然、公証役場を利用する場合は、費用もかかるので、それで無効あれば浮ばれません。結果、この方法を採用する人は少ないです。
私が行った公正証書遺言とその手続き
私は、万全を期して公正証書にしました。検認手続きがいらないのもメリットでした(検認はまたまた別の回に説明します)。
以下、私が作成してもらった公正証書の内容です。
その内容抜粋
・全財産は配偶者○○に相続させる。
・遺言執行者は配偶者○○とする。
・もしありおが死んだとき配偶者も死んでいた場合には配偶者に相続させるとした全財産は遺言者の父○○に遺贈する。
・遺言執行者は父○○とする。
―付言事項(一部だけ抜粋)―
・父○○へ財産が相続されるということは、ありおとその配偶者がすでに他界し娘の○○が一人残されるということですね。今ありおの財産がどれだけあるかは分かりませんがなるべく娘の○○が不自由しないようにしてくださいよろしくお願いします。
次に、身分関係を証明する戸籍(といっても本籍が佐賀県なので当時住んでいた千葉県成田市まで郵送でいちいち取り寄せないと・・手間がかかりました)さらに財産を譲る相手の住民票と自分の印鑑証明書(こちらは住んでいる市町村で取得)を用意しました。
公証役場に遺言作成の予約を入れて、事前に法的な不備がないかチェックしてもらうため遺言の草案をメールかファックスでりました。あわせて、戸籍や印鑑証明書等の身分証明、通帳のコピー(不動産があれば不動産登記簿のコピー)もメールしました。
公正証書遺言では、条件として立会証人を2人手配しなければなりません。立会証人に配偶者等の近親者はダメなので、信用のおける知人をと考えましたが、そもそも公証役場が開いている平日の日中に、同世代で、しかも信用のおける友人、知人を2人も用意することがかなり難しいことに気づきました。
完全に盲点でした。民法の条文にはしれっと規定してありますが、現実に条件にあった証人を見つけることが困難です。そこで、同職の司法書士に理由を説明し、その司法書士と補助者の方に証人になってもらえることになりました。
遺言作成の当日は、印鑑証明書の原本と実印さらに念のため免許証(昔は本人確認は印鑑証明書だけでした)と公証人の先生に払う費用と、証人を依頼した司法書士さん、補助者さんへの証人日当を持ちいざ公証役場へ赴きました。
いつもは仕事として来る公証役場もプライベート?で来ると新鮮でした。テーブルに私、正面に公証人、私の脇に証人2人が並んで座り、まずは、本人確認と遺言作成能力があるかの確認されました。ここで印鑑証明書も提出しました。
3つか4つ質問があり本人確認は終了しました(質問といっても氏名、生年月日、住所、両親の氏名、生年月日、子供の氏名、生年月日等)。認知症が進んでいる場合はこの質問に答えられないので作成を断られます。
その後本題の遺言作成に移りました。民法の規定どおりにあらかじめ草案として伝た内容が、遺言用紙に印字してあり、それを公証人が一文一文読み聞かせてくれました。付言事項は法的効力はありませんが、いわゆる家族へのメッセージなので証人に聞かれしまい多少恥ずかしかったです。
最期まで読み上げが終わり、正しいことを確認されたら、遺言者である私が署名捺印、次に証人2名がそれぞれ署名捺印しました。
さらに公証人が、立派な印鑑で押印し、製本している最中に、公証人の事務員さん、証人それぞれに費用、日当を支払い、完成した遺言書の正本、謄本をいただき、公証役場を後にしました。
最後に
無事に作成が終わった時の感想ですが、一番大きいのはこれで万一何かあっても家族が困らずに済むな、「安心だな」の一言です。お金に見合った手続きでした。
これまで対応してきた遺言書ですが、相続関係も、財産内容も、遺言内容も全く違います。ですが、一つ共通のことがありました。それは自分が死んだあとに残された人が困らないようにという心と、自分が築いた財産をこの人に残したいという明確な意思をもっていらっしゃったということです。お金も時間もかけてそれを遺言という形にされたのです。