日本でも国際化が進んでいるため、相続に外国が絡んでくるケースが増えています。今回は、相続人のうち1人が海外にいるケースの相続手続きや必要書類、注意点などをご紹介していきます。
目次
相続手続きの基礎知識
はじめに基本的な相続手続と進め方について解説していきます。どんな手続きがあるのか?ここではイメージを掴んでいただければと思います。
- 被相続人(故人)が遺言書を作っていなかったかにより大きく手続きが分かれます。遺言があればその内容に従います。(もちろん有効な遺言の前提です)
- 遺産の調査をします。(通常は預貯金、株、投資信託、不動産、車、生命保険は厳密には遺産ではありませんがある程度以上はみなし相続財産となるので記載しておきます)⇨遺産の確定
- 同時並行で被相続人の相続人の範囲を確定するために一定範囲の戸籍、除籍謄本等を収集します。
⇨相続人の確定 - 遺言がない場合には相続人全員の話し合いにより遺産の分け方を決めます。
⇨(遺産分割協議)分割協議の確定 - 遺産分割協議がまとまればその内容を遺産分割協全員が署名、実印を押印し、印鑑証明書を添付します。
この流れが基本になりますので、それぞれの相続手続を進めていきます。
それぞれ相続手続が難航している場合は、いずれかの段階で問題が発生してきます。(問題が複数ある場合ももちろんあり)
相続人が海外にいる場合の問題点
相続人の1人が海外にいる場合には次のような問題があります。
問題点がどこにあるのかを、上のモデルケースで見ていみると、、、。
『5の実印を押印し、印鑑証明書を添付します』という箇所に問題が出ています。
なぜなら、印鑑登録証明書は自分が住民登録している市区町村で登録した印の印影を、住民登録してある市区町村長が証明する公文書なので、海外に居住している日本人は、そもそも印鑑登録という行為自体ができないのです。
海外では印鑑登録ができないので、印鑑証明書もないよね。って事です。
たまに住民登録を日本に残したまま海外で生活している方がいらっしゃいますが、その方はまだ印鑑登録が残っているので、一旦帰国した時に印鑑証明書を取得するか、印鑑カードを誰か信用できる人に渡して、代理で取得してもらうかのどちらかが可能です。
この場合は印鑑証明書が取れるので手続自体は相続人全員が日本にいる場合と同じようになります。
海外への転転出届を出すとどうなる?
話しを戻しまして、海外で1年以上生活を予定している人は海外への転出届けを提出する必要があります。転出届けを提出すると住民登録が抹消され、同時に印鑑登録も抹消されます。
その後は印鑑登録がない状態になります。
しかし相続手続や、日本で所有していた家を売却したいという状況はあるかと思います。
その時に使用できる書類が実はあります。それが外務省の在外公館(大使館、領事館)で発行してもらえるサイン証明書(署名証明書)というものです。
外務省の署名証明とは
ここで、外務省の在外公館(大使館、領事館)で発行してもらえるサイン証明書(署名証明書)についてみていきます。外務省のHPからの抜粋ですが、このように書いてあります。
署名証明とは
日本に住民登録をしていない海外に在留している方に対し,日本の印鑑証明に代わるものとして日本での手続きのために発給されるもので,申請者の署名(及び拇印)が確かに領事の面前でなされたことを証明するものです。
証明の方法は2種類です。形式1は在外公館が発行する証明書と申請者が領事の面前で署名した私文書を綴り合わせて割り印を行うもの,形式2は申請者の署名を単独で証明するものです。
どちらの証明方法にするかは提出先の意向によりますので,あらかじめ提出先にご確認ください。
日本においては不動産登記,銀行ローン,自動車の名義変更等の諸手続き等,さまざまな理由で印鑑証明の提出が求められますが,日本での住民登録を抹消して外国にお住まいの方は,住民登録抹消と同時に印鑑登録も抹消されてしまいます。
そのため法務局や銀行等では,海外に在留している日本人には印鑑証明に代わるものとして,署名証明の提出を求めています。
平成21年4月1日より,署名証明書の様式等が変更となりました。主な変更点としては,これまでの証明書上の様式では記載のなかった署名者の身分事項の項目(生年月日,日本旅券番号)が加わりました。
署名証明書は2種類あります。
形式1の署名証明書(合綴型)の見本
サインは領事の面前でしなければならないので、くれぐれも遺産分割協議書は署名せずに持参しましょう。また署名証明書は約1,700円と日本の印鑑証明書より割高です(笑)
(右に遺産分割協議書、左が署名証明書が綴られます)
形式2の署名証明書の見本
1枚単独型で、日本の印鑑証明書みたいなイメージです。ただし印鑑のかわりにサインなので照合がしづらく、法務局より形式1の方を求められることが多いです。提出先に要確認ですね。
ここまで入手したら、書類に期限が決められていてなおかつ、有効期限が短いものから進めていきます。だいたい、金融機関(3か月)、ゆうちょ銀行(6か月)、法務局での相続登記という感じです。
戸籍や印鑑証明書・署名証明のお役立ちポイント!
金融機関、ゆうちょ銀行では窓口で「他にも用途があるのでコピーして原本は返却してください。」と伝えるとその場でコピーしてくれ、原本は返却してくれます。法務局では名義変更申請時に相続関係説明図という「家系図」のような家族表を提出すると名義変更完了後に返却してくれます。
(窓口が忙しい場合や戸籍が膨大な場合には窓口の担当者が顔を引きつらせながらも対応してくれるでしょう、翌日以降の返却になるかもしれません)
まとめ
今回は「相続人のうち1人が海外にいるケースの相続手続き」をテーマに必要書類や注意点などについてご紹介してきました。
次回は【金融機関の担当者も喜ぶ、相続に関する比較的新しい制度で法務局の肝いり制度である「法定相続情報証明制度」~相続手続が簡単に~ 】についてご紹介したいと思います。